子供の頃は、学校の宿題が好きではなかった。
 書き取りや計算ドリルは別にいいのだが、日記を書くのがすごく苦手だった。今日は一日家で本を読んでいましたとか、そんな内容しか思い浮かばない。
 何を書こうか悩んで、空白のページにえんえん向かっていることが多かった。そんなわけで、あまりいい思い出が無いのだ。

 その日の宿題は「自分の家族についての作文」だった。私にとっては、普段の日記を書くよりも難しい。
 例の如く白紙の作文用紙とにらめっこしていると、あの人が覗き込んできた。

「ああ、そりゃお前には難しいだろうなあ」

 私から説明を聞くと、意地悪そうに呟いた。そしてしばらく考える素振りを見せた後、チラシを手に取った。訝しむ私を他所に、彼はボールペンを走らせる。
 ほれ、と渡された紙切れの意図が掴めずにいると、彼は机の作文用紙を指した。

「そいつで適当に考えとけ」

 チラシの白紙部分には、彼が考えたらしい「設定」が書かれていた。
 両親は、小さなケーキ屋を開いていたこと。店が休みの日は、一緒にお菓子を作ったりしたこと。
 しかし父が体を壊してしまい、店を閉めざるをえなくなったこと。母は父の看病をしており、自分は遠縁の親戚に預けられている、ということ。

「適当な嘘を作ってもいいが、考えるのは面倒だし俺が親父じゃ不満だろ。二人は、その後死んじまうんだがな」

 俺がガキの頃だ、と彼は言った。背中しか見えなかったので、どんな表情をしていたのかはわからなかった。
 宿題は無事書き上げることが出来た。作文の最後に「大きくなったらケーキ屋になりたい」という平凡な一言を付け足して。

 ふと、あの時の話はどこまで本当なのだろうか、と思うことがある。
 何度かそれとなく尋ねたが、あの人が話してくれることは無かった。

2008/03/09