脱走者

「もう出て行ってやるっ!!」

 アース神族の住むアースガルド、人間の住むミッドガルドより遥か東の地ヨトゥンヘイムの小さな家で、大きな叫びが生じた。

「あんたなんか大嫌いだ、顔も見たくない! だから俺がこの家から出てってやる!」

 叫んだのは幼い少年だった。彼の頬にはまだ新しい、殴られた形跡がある。正面に自分を殴った父親を睨みつけて、少年はそれだけ叫んでみせたのだった。

「ああ、出て行け。そしてそのまま野垂れ死ぬがいい!」

 父親は怒声で返す。それを受けて、少年は背中を向けて家を飛び出していった。
 それまで二人が言い合うのを見ていただけの母親が、少年を引き止めようと外に出る。

「テュール! 待ちなさい、テュール!」

 母親は限界まで声を張りあげる。そして何度も少年の名を呼んだが、テュールが応えることはなかった。

「おおい、オーディン! また武器が壊れちまったぃ!」

 思わず耳を塞ぎたくなるような大声を引き連れて、トールはオーディンのいる玉座の間を訪れた。

「トール、また壊したのか……それと、あまりわたしに話しかけないでくれ」

 玉座のオーディンは沈んだ声でトールを出迎えた。表情が暗いのは、言うまでもなく消息不明のラウフェイのためである。

 あれからアースガルドにラウフェイは帰って来ず、そのまま数年の月日が経過してしまっていた。時間はオーディンの記憶からラウフェイの存在を消し去ってはくれない。
 二人の息子のうちの一人――ホズが盲目であると判明したことも、オーディンの心に追い討ちをかけていた。

 オーディンがそんな様子でも、トールには関係ない――トール本人は関係ないと思っている。

「だってよう、でっけぇトロールを見つけたんだぜ! あいつは殺しておかんとまずい!」

 オーディンがヨトゥンヘイムを訪れて以来、ヤルンヴィドに生息する魔狼たちは神への警戒を強め始めた。偶然とはいえ、オーディンは彼らの長である巨狼を退却させたのだ。そのため、魔狼たちは神々の存在を強く恐れ、またより一層憎むようになった。
 そこで、魔狼は一族の強化を図った。その一つが、外の血を取り入れることであった。
 魔狼の一部が捕食と戦力増強のために森から進出し、ミッドガルドに生息している狼をはじめとした様々な獣と盛んに交わるようになったのだ。しかし、それは戦力増強という点で見れば失敗に終わっている。

 ヤルンヴィドの魔狼とミッドガルドの獣が交わった結果、生まれたのは何の獣なのか、一目では判別のつかない生物だった。
 狼に似た頭を持っていたり、牛の角を備えていたりと外見は様々だが、巨大な全身を暗色の剛毛に覆われている点は共通している。格好こそ立派だが、戦闘能力は魔狼よりも遥かに劣っている。
 彼らはトロールと呼ばれ、ミッドガルドの野を徘徊している。トロールが大量に生まれても、魔狼は外の血との混合が成功することを信じており、結果トロールは大量生産される結果となった。

 そして大量のトロール達は、彼らを敵と見なしたトールにより定期的に駆除されている。トールの手を煩わせているのだから、この意味では成功を収めているかもしれない。

「トール、いったい今までどれだけの武器がお前に壊されてきたことか……」

 オーディンは溜め息をついた。しかしトールはまったく気にしない。次々と武器が壊れていく原因はトールの恐ろしい怪力だが、トール自身は「すぐ壊れるような軟弱な武器が悪い!」と思っているのである。この際素手で戦ってくれ、とオーディンは言いたい。

「とにかく!! 俺はあのトロールをやっつけて来る! オーディン、止めてくれるなよ!」

 勿論オーディンは止めなかった。トールを止められる者は、このアースガルドには存在しないのだ。
 騒音と共に、トールは玉座の間を出て行った。そして後には、沈鬱な表情のオーディンがいるだけである。

「ちくしょう、あのくそ親父……」

 まだ痛む頬をさすり、時折こういった罵声をこぼしながら、テュールはヨトゥンヘイムの荒野を歩いていた。当ては無いが、座り込んで泣いていても状況は好転しないのだ。とりあえず落ち着ける場所を探して、テュールはとにかく足を進めた。

「……ここは」

 テュールが辿り着いたのは、ヨトゥンヘイムの果てと呼ばれる森――ヤルンヴィドだった。ここを抜けると、下賎な人間と野蛮な神が住んでいる土地に出る。テュールはそう聞いたことがある。
 ヤルンヴィドに住む狼たちは臭いでわかるのだろうか、ヨトゥンヘイムの巨人を襲ったりはしない。ヤルンヴィドを抜けることは、巨人にとっては易しいこと――おそらく、テュールにとっても。
 だが、森を抜けたところにあるのは人間と神がのさばる地。テュールは危険な場所であると認識している。

 このままさまよっていても、いずれは死んでしまうだけだろう。どうせ死ぬのなら最後にヨトゥンヘイムの外を見てみたい。子供の好奇心である。蛮勇、ではなく勇気を振り絞って、テュールはヤルンヴィドへ飛び込んだ。
 漆黒の木々の間を、テュールは一直線に駆け抜けていく。周りから魔狼たちが見つめているのを感じるが、それにも構わず夢中で走り続けた。

「――あてっ!」

 一心不乱に走っていたテュールは、ヤルンヴィドの闇もあいまって、前方すらろくに見えていなかった。テュールは突然、巨大な何かに衝突したのだ。反動でしりもちをつき、テュールは頭上を見上げる。
 そこにいたのは怯えた様子のトロールだった。ぶつかってきたテュールには見向きもせずに、森の闇へ一目散に逃げていく。立ち上がれずに呆然としていたテュールの前方から、恐ろしい咆哮が響いてきた。と同時に、破壊音をともなった何かが突進してくる。周囲に潜んでいた魔狼も、関わりたくはないと次々に逃げ出していく。

「あ……」

 テュールの前に、再び巨大な影が出現した。肩に折れた剣を担いだ影はテュールを見下ろし、屈み込む。テュールは逃げ出そうとしたが、驚きと恐怖のために足が動かなかった。

「餓鬼かあ? 何だってこんなところにいるんだ?」

 顔を覗き込んできた男の声の大きさに、テュールは思わず耳を塞いだ。赤毛の男は折れた剣のほかにも数本、鞘に収められた剣を腰に下げている。テュールは後ずさりしたが、男に肩を掴まれ、それ以上後退できなくなってしまった。

「まあ、どうでもいいか。どうせ迷って来たんだろ? 俺が連れて帰ってやろう!」

(あの家に!? 冗談じゃねえ!)

 テュールは心底拒否したくなった。再び父親の顔を拝む羽目になってしまうだけではない、あの男の性格を考えれば、「意気地なしめ」とテュールを罵るに違いない。

「い、いいよっ! 一人で行けるからさ!」

 男は高らかに笑って見せる。

「ははは、冗談はよせ! 餓鬼にこの森を抜けられるわけがないだろう!」

 問答無用でテュールをつまみあげると、男はずんずんと歩き出した。テュールは男の進行方向がヨトゥンヘイムの方向でないことに気づく。

(そうか……)

 この男は、テュールが人間の子供だと思っているようだ。家もミッドガルドにあるのだと思っているのだろう。ちょうどいい、このままミッドガルドに連れて行ってもらおう――テュールの頭の中に、小さな計画が浮かんだ。

「お前、名前は何ていうんだ?」
「……テュール」
「ほー、いい名前だなあ。俺はトールだ。覚えておけっ」

 しばしの間歩きつづけて、次第にテュールは不安になってきた。トールという男は何の迷いもなく進んでいく。この森を熟知しているのだろうか、それとも――

「おっ?」

 トールは前方に人影を発見した(ちなみにトロールを追いかけていたことは、テュールと会った時点で綺麗さっぱり忘れている)。歩み寄ってみるとそれはひどく憔悴した女性だった。金色の髪が美しい。

(……綺麗だ)

 出し抜け、トールはそんな思いを抱いた。慌ててそれを心から払拭すると、女性の肩に手をかける。

「おい、生きてるか?」
「うう、ん……ち、近寄らないで!」

 突然手をはねのけられ、トールは唖然となった。

「あ……あなた、巨人じゃないの?」

 巨人、という単語にトールは激しく反応した。

「何だとっ、俺が巨人!? そんなわけがないだろう、俺は誇り高きアース神族のトールだぞ!」

(アース、神族だってぇ!?)

 神、と言えば巨人の祖先であるイミルを殺したオーディン達の仲間ではないか! テュールは無意識のうちに身震いしていた。もし自分が巨人であることがばれたら、トールはきっと自分を殺すのだろう。

「あなた……神? そんなことどうでもいいわ。私を外に連れて行って! ヨトゥンヘイムなんて、もう一夜たりともいたくないの!」

 女性の気迫に、トールは思わず頷いてしまった。

「――それでね、あいつらったらひどいのよ。私が人間の子供を産んだだけで殺すなんて叫びだすんだから」

 彼女はシフと名のった。シフは巨人の血筋で、一度だけミッドガルドへ行ったことがあるのだという。その時一人の人間と交わり、子供を身篭ったのだが、それに身内の巨人たちは激怒したそうだ。
 巨人の中は、神だけでなく人間をも嫌悪している者が多い(そしてその影響で魔狼は人を喰らう)。人間の子供を宿したシフは裏切り者だと言うわけだ。
 ちなみに、シフが産んだ子供もこの場にいる。テュールとほぼ同じ年頃で、ウルという少年だ。母親のシフに似て、髪の色は金色である。

「ねえ…僕たちホントにミッドガルドに向かって歩いてるのかな?」
「知らねえよ。あのトールって奴、この森に詳しいのかどうかすらわかんないんだから」

 テュールが抱いていた疑問を、ウルも持っていたようだ。同じ年頃ということもあって、二人はわりと意気投合していた。

「もう、本当に心の狭い人たちなんだから。子供の一人や二人、どうでもいいじゃないの、ねえ」
「はあ……そうだな」

 早口でシフがまくし立てるため、トールはろくに内容を理解できないまま、とりあえず相づちを打っていた。

「……あなた、私の話聞いてないでしょ」

 シフは間近にあるトールの後頭部を睨みつける。というのも、シフはトールに背負われているのだ。本人が歩けないと言ったのでトールは彼女を背負ってやったのだが、結果として耳の間近で愚痴を聞かされる羽目になっている。

「お、おう……すまん」

 あまり嘘のつけないトールであるから、素直に謝る。シフはトールの頭を小突きながら嘆息した。

「素直でよろしい、許してあげるわ。それにしても、まだミッドガルドには着かないの?」

 シフの言葉に、トールは停止した。後からついて来ているテュールとウルも、訝りながら足を止める。

「――そういえば、ミッドガルドはどっちの方向なんだ?」

 その場にいるトール以外の全員がその言葉に唖然となった。

「ちょっと、方向もわからないで歩いていたって言うの!?」
「なんで早く言わないんだよ、おじさん!」
「俺たち遭難してるんじゃないのか!?」

 背中のシフをはじめとした三人から叱責されて、さすがのトールも縮こまってしまっている。

「いや……歩いてりゃそのうちミッドガルドに出るかと思ったんだ」
「そのままヨトゥンヘイムに出たらどうするんだよ!」
「ええい! とにかく、進めば行き着く!」

 シフを背負ったままトールは駆け出した。無論、方向はでたらめである。その行為が結果として功を成した。

「おわあぁっ!?」

 足元をすくわれたトールは、情けない声をあげて転倒した。シフを下敷きにしなかっただけ立派と言えよう。そのまま、水の中に顔を突っ込んでしまったのだが。
 すぐ側に川が流れていたのだ。

「ちゃんと足元見てなさいよ! 私まで水に浸かっちゃったじゃないの!」

 岸に上がったトールは、シフから大いに責められた。

「川……イヴィング川か?」

 テュールは呟く。
 イヴィング川はミッドガルドからヤルンヴィドを貫き、ヨトゥンヘイムまで届く川である。一直線ではなく相当に湾曲して流れているのだが、テュールは一つの名案を思いついた。

「確かイヴィング川の上流にミッドガルドがある。だからこの川を遡っていけば、きっとミッドガルドに出るぞ!」
「なるほど、この川の上流を目指せばいいんだな――どうしてお前が知ってるんだ?」

 何気ないトールの疑問。思わぬ流れで核心を突かれ、テュールはやけくそになって答えた。

「黙ってたけどな、俺巨人族なんだよ! 親父が俺のこといつも弱っちい奴だって言って殴るから、家出してきたんだ、悪いか!」

 もしかしたら殺されるかもしれない――そんな考えは、とっくに忘れてしまっていた。
 テュールの返答に、トールは笑いで以て応じる。

「へえ、たくましいじゃねえか、テュール! 気に入った、よし。お前もアースガルドに連れて行ってやるよ!」
「俺も、って?」

 テュールは首を傾げたが、既にシフを背負いなおしてトールは歩き出していた。

「――もう……どれだけ歩いた?」

 疲れた表情でウルは呟いた。

「そんなこと言うな……考えたくない」

 返事するテュールも、やはり疲労の色が濃い。

 川の上流へ向かって歩けばいい――のだが、曲がりくねった流れにトール達は苦戦していた。休憩を入れながら歩いて、もう二度ほど木々の間から射してくる陽光が消えているような気がする。
 トールは勿論、背負われているシフさえ疲弊していた。疲労は極限に達しそうだが、とにかく進むだけ。今はそれしかない。
 いつまで続くのかもわからない強行軍は、突然現れた狼によって中断された。数頭の狼たちが激しく吠え立ててきたのだ。

「何だ、こいつら!」

 噛みつこうとしてきた狼を、トールは片手で払いのけた。

「てめえら、神だな!」

 前方はうんざりするほどの上り坂だったのだが、四人にそんな暇は与えられなかった。坂を転がり落ちてきた巨岩を、トール達は慌てて回避する。坂の上を見上げ、トールは激怒にかられ咆哮した。

「岩をぶつけてくるとは、卑怯だぞ!」

 姿を現したのは三人ほどの巨人だった。

「俺達はスヴァーラングの息子! そいつらが吠えているということは、お前らは神だな!」
「巨人か……!」

 トールはシフを背中から下ろし、三人を庇う形で仁王立ちになった。再び巨岩を落とそうとしているスヴァーラングの息子達を見て、トールは怒りをむき出しにする。

 「卑怯」という言葉をトールは嫌っている。彼にとっての勝負は純粋な力のぶつけ合いであり、彼らのように真っ向から戦おうとしない行為は許せないのだ。
 転がってきた岩を、トールは大胆にも素手で受けとめてみせた。そして両腕で持ち上げると、転がしてきた巨人の元へ律儀に返す。

「ひ、ひええっ、助けてくれえっ!」

 予想外の反撃に、巨人たちは腰を抜かしてしまった。泡を食って彼らが逃げ出すと、周囲で吠え立てていた狼もトールの迫力に怖気づいたのか、繁みの中へ逃げていく。

「ふん、この程度で逃げ出すとは!」

 この程度と言うが、これはトールだからこそ成せる業なのではないか――テュールをはじめ、ウルもシフも内心でそう呟いていた。

「あ……光だ!」

 巨人と魔狼を追い払ってから、四人はたっぷり休憩を取ったので、足取りは軽かった。四半日もしないうちにヤルンヴィドの森は終わりを迎える。四人の表情も、光が増えるにつれて明るくなっていった。

「どうだ、ここがミッドガルドだぞ! 巨人の国なんかよりずっといいだろう!」

 テュールに向かってトールは誇らしげに言う。
 テュール、そしてウルは思わずため息を漏らした。草木がまばらに点在しているに過ぎない荒地の故郷に比べれば、豊かな緑に包まれたミッドガルドはとても美しいものに見える。感激に浸っているうちにトールに掴み上げられ、彼らはそのままアースガルドへ直行した。

「オーディン! 今帰ったぞぉ!」

 出て行った時と同じく騒音を引き連れて現れたトールだったが、オーディンの反応は違っていた。

「トール、今までどこに行っておったのだ。トロールを追いかけていったそうだが、随分と帰って来なかったではないか……心配したのだぞ」

 トールの帰還を心底喜んでいる様子である。
 オーディンの対応は、トールには別の意味として映ったらしい。

「この俺がトロールなんかに負けるはずが無いだろ! その――色々あったんだよ。でもな、土産を持ってきたぜ!」
「へっ?」

 そう言ってトールが見せたのは少年――テュールだった。テュールは目を丸くして、正面のオーディンと後ろのトールを交互に見る。土産、に小さな期待を抱いてみたオーディンだったが、さすがに子供が土産だとは予想できなかったようだ。

「ト、トール……まさか、さらってきたとでも言うのではないだろうな……」

 神が人さらいをするなど、とんでもないことだ。勿論トールは否定した。

「まさか! こいつはヨトゥンヘイムの餓鬼でな、家出してきたんだと。なかなか肝の太い奴だろう! じゃ、俺は用事があるから」

 無造作にテュールをその場に置くと、そそくさと出て行った。テュールが我に返って呼び止めるにはもう遅い。トールの率いる騒音が聞こえてくるのは既に館の外からだ。
 絶句していた二人だが、先にオーディンが、躊躇いつつ口を開いた。

「おぬし、名前は何と言う?」
「……テュール……」
「ヨトゥンヘイムの子供だと、トールは言っておったな……巨人族か」

 オーディンは何度か頷くと、不意にテュールに向かって微笑んだ。

「まあ、よい。巨人だからと、おぬしのような子供を殺すのは忍びない――養子にでもするか」
「よ、養子ぃ!?」
「わたしでは嫌か? それでは誰に預けるか――」

 確かにテュールは驚いたが、拒否するつもりはなかった。
 オーディンが続けた言葉からすると、誰かの養子にされるのは確定事項らしい。ヤルンヴィドでの体験で、トールの養子になるのはお断り。ここで嫌だと言えばトールに押しつけられてしまうのかもしれない――自分のことに関しては、テュールは頭の回転が速かった。

「絶対に誰かの養子にならないと駄目ってんなら、あんたでいいよ! 俺、あんたの養子になる!」

 この発言により、テュールはオーディンの養子として、アースガルドに迎えられることとなった。

「なあ、シフ……」

 テュールをオーディンの元に置いてきたトールだが、シフとウルは自分の館――ビルスキルニルに連れて来ていた。

「何?」

 (非常に)珍しく遠慮がちに問いかけてきたトールに、シフは軽く応じる。トールは何度も深呼吸を繰り返して、ようやくシフを真正面から見据えることができた。

「会った時から思ってたんだが……俺、あんたに惚れちまったみたいなんだ。だから、その――俺の妻になってくれねえかな?」
「いいわよ」

 最初に応じた時と同じく、シフは軽く答えてみせた。部屋を見て回っていたウルを捕まえてトールの前に突き出す。

「勿論、ウルの面倒も見てくれるわね?」
「おう。シフだけ迎えてこいつを放り出すなんて、できるわけがねえだろ」

 シフは立ち上がり、トールの傍に歩み寄った。ウルに目隠しをして、トールの頬に軽く唇で触れる。

「これからよろしくね、『あなた』」

 顔を髪の毛と同じ色に染めて、トールは昏倒した。

 後日、アース神族に新しく三人が加わったことはアースガルド中に明るい話題として報じられた。