人は水かきで空を飛ばない

 ソフトバンク文庫の「北欧神話がわかる〜オーディン、フェンリルからカレワラまで〜」という本を買ってみました。648円に文庫本サイズ、価格面でも持ち運び面でもお手頃な本ではありませんか。
 と思いながら読んでいたところ、ヴェルンドの歌に気になる記述が。
 ヴェルンドの歌についてはウィキペディアのページにあらすじがあります。

 かくして、復讐を遂げたヴェルンドは、ニーズズの家来から取り戻した魔法の水かきを使って飛び上がり……

(ヴェルンドの歌の項より)

 いやあそりゃねーよ、そこは翼で飛んで行ったのが正しいだろーと思ったらエッダにはこのように書かれてありました。

 「ようし、わしは」とヴェルンドは言った。「ニーズズの家来たちから奪われた水かきを取り戻したぞ」

(ヴェルンドの歌)

 復讐を果たしたヴェルンドが島を去る際に残した言葉ですが、確かに水かきとあります。だからと言って水かきで空飛ぶとか何かおかしいよね。ここでの「水かき」はケニングの類なんじゃないかと思うのです。
 ヴェルンドは捕らえられた際、腱を切られ足が不自由になっています。島から出られないのはこのためです。島から出る方法を得た=自由になったことを、「水かきを得た」と言い換えているのではないでしょうか。

 何故「水かき」なのか。ヴァルキューレが持っていた白鳥の羽衣と繋がりがあるのかもしれませんし、水鳥の類に姿を変えたのかもしれません。
 ベズヴィルドを「花嫁」と言っているあたり、前者の可能性が高いと思われます。

 ちなみに、前後の段落には鳥に変じたことを示す記述はありません。じゃあ水かきで空飛んじゃった線もあるんじゃないの?とちょびっとだけ考えましたが、ヴェルンドの歌には原型となった話があるそうです。
 「聖スヴェリン伝」という文献が最も古く、前半のヴァルキューレ達の部分を除けば、流れはほぼ同じ。
 ヴェルンドは幽閉された後、彼の弟のエギルが打ち落とした鳥で翼を作り、それを用いて島を脱出しました。元の話に従えば、ヴェルンドは何らかの方法で翼を作り、それで空を飛んだとするのが自然ですね。

 他にもイミル(ユミル)であるはずの部分がスルトになっていたりする誤植がいくつか。イマイチ感が漂う本でした。
 価格を優先すればなかなかの本かもしれません。他の良書を買うほうが早い気もしますが。